箕面のクビワキンクロ♀

第５話
　「箕面のクビワキンクロ♀」　

クビワキンクロ♀（2001/3/19大阪府箕面市）
撮影　尾崎　由紀

　クビワキンクロは私にとって愛しい想い出の鳥である。会いたくて会えなくて、やっと会えた大切な想い出の鳥である。出会うまでになんと７年もかかってしまったからである。
クビワキンクロと言えば上野の不忍池にコスズガモと同時に出現していたことが、あまりにも有名である。全国的にほとんどのバーダーが見たと言ってもよいくらい（？）で「えぇ？まだ見てないの～？」と仲間内ではバカにされていた。なぜ私は見ていなかったのか。それは１９９４年３月、主人が東京出張でいつもの裏切りをしたことに始まる。仕事中抜け出し、双眼鏡も持たずに背広姿でせかせかと歩いて池へ向かい、運良く観察していた学生のグループを見つけ、あやしいサラリーマンは声をかけスコープをのぞかせてもらう…これで主人は見事２種ともゲットしたのである！
　２年後の１９９６年２月、私達は「関東珍鳥行」と題して荒川のサバクヒタキ、銚子のカナダカモメなどを見に行くことになり、その途中私は恨みを晴らすため不忍池を予定に組み込むがコスズガモはゲットできたもののクビワキンクロには会えず。その後もず～っとどうしても機会に恵まれず見られないままでいた。
　月日は流れ２０００年の暮れ、我が家もパソコンを導入し機械音痴の私は右も左もわからないなりにも慣れない手つきで細々とメールを始めた。今ではメールで情報を送ることなど常識の世の中であるが、当初私はそのあまりに画期的なシステムに仰天した。実は当時、私は体調を崩して半年余り寝たり起きたりの日々が続いていた。主人が出張で留守の多いひとりぼっちの日々が不安になり悪循環でますます落ち込む毎日。身体のリズムの何かが変わってしまい気分も体調も沈む一方だった。そんな私のところに届けられるメールは神様からの贈り物のように思えた。どれほど励まされたことか言葉ではとても言い尽くせない。人様と面と向かって話をするのが苦手な私もメールならゆっくりと考えながら素直に気持ちを伝えることができた。

　２００１年２月１４日、私は自作のバレンタインカードをお世話になっている方々へメールで贈った。すると３月１４日ホワイトデーにタイミング良くなんと鳥情報が届いた。それは夢にまで見たクビワキンクロ（♀）の情報であった。それも、すぐ近くの箕面市の池に！
翌日朝一番で出かけ無事ゲット！ようやく７年間の屈辱を晴らすことができた。あまりのうれしさに４日間通いつめた。平日はひとり電車、バスを乗り継いで出かけた。折りしもスギ花粉飛散最盛期で花粉症に悩まされながらの観察であったが、４日目にはスギ花粉の飛散もおさまったのか（祈りが通じたのか）症状も出ず、ゆっくりと観察できた。鏡のように静まりかえった水面を音も無くすーっと泳ぐクビワキンクロ♀は５羽のキンクロハジロを引き連れて一際目立っていた。とがった頭、嘴のつけねの白、嘴の独特なパターン、時折尾羽をきゅっと上げた特徴的なポーズで私を魅了した。
ぽかぽかとした早春の陽だまりの中で私は夢を見ているみたいにうっとり見ていた。会いたくてたまらなかった憧れの鳥がいま眼の前にいる。まるで恋人とのデートのように思えた。私の長年の夢を叶えてくれたこのクビキン♀情報をくださったあなたに、この場をお借りして心から御礼を申し上げたい。